東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)168号 判決 1989年4月26日
原告
イーデン電気技研株式会社
右代表者代表取締役
井出勝美
原告
株式会社電気工作
右代表者代表取締役
染矢武伯
原告
共栄電気管理株式会社
右代表者代表取締役
石塚正彦
原告
九州電気技研株式会社
右代表者代表取締役
森正実
原告
有限会社ナカソネ電省
右代表者取締役
仲宗根弘
右五名訴訟代理人弁護士
小柴文男
同
若松巌
同
衛藤彰
被告
通商産業大臣
三塚博
右指定代理人
伊藤正髙
外六名
主文
原告らの本件主位的請求に係る訴えをいずれも却下する。
原告らの本件予備的請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
(主位的請求)
1 被告が、原告イーデン電気技研株式会社の昭和五九年五月二三日付けの、その余の原告らの同年九月二六日付けの、各電気事業法施行規則七七条二項所定の法人に指定することを求める申請に対し、原告イーデン電気技研株式会社の申請については同年九月二六日に、その余の原告らの申請については同年一〇月一五日に、それぞれした右各申請を却下又は棄却する旨の処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(予備的請求)
1 被告が、イーデン電気技研株式会社の昭和五九年五月二三日付けの、その余の原告らの同年九月二六日付けの、各電気事業法施行規則七七条二項所定の法人に指定することを求める申請に対し、何らの処分をしないことは違法であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(主位的請求に対する本案前の答弁)
主文一、三項と同旨
(主位的請求に対する本案の答弁)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 主文三項と同旨
(予備的請求に対する答弁)
主文二、三項と同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
原告らはいずれも電気工作物の保安、管理、監督等の業務を目的とする法人であり、被告は電気事業法施行規則(以下「規則」という。)七七条二項により、同項所定の委託契約の相手方となり得る法人(以下「指定法人」という。)を指定する権限を有する者である。
2 原告らの申請
(一) 原告イーデン電気技研株式会社(以下「原告イーデン」という。)は、昭和五九年五月二三日に、その余の原告らは同年九月二六日に、それぞれ被告に対し、規則七七条二項所定の指定法人の指定を受けることを求める旨の申請書を郵便で発送し、右各申請書は、そのころ被告に到達して受理された。
なお、規則七七条二項は、指定法人について、「別に告示する通商産業大臣が指定する法人」と定めるが、指定処分の効力発生要件としては、通商産業大臣による指定行為があれば足り、告示は指定処分を受けた法人の名称を通知する通知行為の性質を有するに過ぎないものと解すべきであるから、原告らの右各申請の趣旨としては、主位的には、単に原告らに対し指定法人の指定をすることを求めるのみで、右の指定を告示の形式によって行うべきことまでを求めるものではないが、仮に、告示をもって、指定処分の効力発生要件と解される場合(ただし、告示の形式をとることが通商産業大臣の行政上の義務によるものであると解される場合を除く。)には、予備的に、告示の形式による指定を求めるものである。
(二) 原告らは、右申請に当たって、電気事業法(以下「法」という。)及び規則等に指定法人の指定を受けるための要件及びその手続が何ら明記されていないことを考慮して、とりあえず、各申請人の商業登記簿騰本を添付し、その他の必要書類については被告からの要求に応じて追完する旨を申し出た。
3 申請権の存在
(一) 法は、電気工作物(法二条七項)を電気事業の用に供する電気工作物(法四一条以下)と電気事業用以外の電気工作物(法六六条以下)とに分け、後者をさらに一般用電気工作物と自家用電気工作物とに分類する(法六六条)ところ、このうち、一般用電気工作物には、具体的には、低圧で電気の供給を受ける家庭用ないし商店用の電気工作物が該当し、自家用電気工作物には、相当量の電気の供給を高圧で受け、電気を使用するために変電設備等を有するビル、工場等の電気工作物が該当する。
(二) そして電気工作物の保安の確保等に関し、
(1) 電気事業の用に供する電気工作物については、電気事業者は、その工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、通商産業省令で定めるところにより、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、主任技術者を選任しなければならず(法五三条一項)、
(2) 一般用電気工作物については、電気の供給者(電気事業者)は、供給する電気を使用する一般用電気工作物が通商産業省令で定める技術基準に適合しているかどうかを調査しなければならないが(法六七条一項)、通商産業大臣が指定する者(指定調査機関)にその調査業務を委託することができ(法六九条一項)、
(3) 自家用電気工作物については、その設置者は、その工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、通商産業省令で定めるところにより、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、主任技術者を選任しなければならないが(法七二条一項)、通商産業大臣の許可を受けたときは、主任技術者免状の交付を受けていない者を主任技術者として選任することができる(法七二条二項)、
とされている。
(三) ところが、法七二条一項に基づく規則七七条二項は、自家用電気工作物のうち最大電力五〇〇キロワット未満の需要設備のみに係る事業場のうち、別に告示する一定の要件に該当する者又は別に告示する通商産業大臣が指定する法人(指定法人)との間で、当該需要設備の工事、維持及び運用に関する保安の監督に係る業務(以下「保安業務」という。)を委託する契約を締結した場合であって、保安上支障がないものとして通商産業大臣等の承認を受けたもの等については、主任技術者を選任しないことができる旨定めている。規則の右規定は、全国に無数にある自家用電気工作物ごとに一律に専任の主任技術者を置くことが実際的でないため、主任技術者不選任承認制度(以下「不選任承認制度」という。)を定めたものであるが、法には自家用電気工作物について主任技術者の不選任を承認する旨の明文の規定はなく、下位規範である省令で上位規範である法律を変更したものとして国家行政組織法一二条一項に違反する疑いのある立法的に不備のある規定であるから、その不備は、法規範全体の相互の関連、立法目的さらには憲法の精神にまで遡ったうえで、解釈によって補わなければならない。
(四) ところで、指定法人の指定を受けるための申請権については、これを定めた明文の規定は存在しない。しかしながら、これは規則の不備であって、以下の理由により、原告らに指定法人の指定を受ける申請権が認められるべきである。
(1) いわゆる特許企業としての性格を多分に有するとされている電気事業者に関してさえ、法はこれを営もうとする者に許可申請権を認め、許可の基準を明らかにしている(法四条、五条)。自家用電気工作物の保安業務は、電気事業のような独占事業ではなく、元来は国民が自由に営業できるものであるから、電気事業を営む許可の申請権さえ認められる以上、指定法人の指定を受ける申請権も当然に認められるべきである。
(2) 規則七七条二項により、自家用電気工作物の設置者が保安業務の委託契約を締結することによって主任技術者の選任を要しないこととなる指定法人以外の委託契約の相手方については、電気主任技術者免状を受けたことのほか、一定の実務経験年数等がその資格要件とされている(昭和四六年六月二三日通商産業省告示二三九号(以下「本件告示」という。)一条)。このように、個人であれば、一定の要件を満たすことによって、保安業務の委託契約の相手方として保安業務を営むことができるのに、指定法人の指定を受けようとする者の申請権が認められないとすれば、法人については保安業務の委託契約の相手方として保安業務を営むことができないことになる。しかしながら、自家用電気工作物の設置者から委託を受けている保安業務について、個人と法人とを差別する合理的理由はなく、憲法一四条の規制のもとにおいて不選任承認制度が設けられている以上、法の解釈として、法人については、個人と異なり、国家(通商産業大臣)の一方的判断により指定を受けた場合にのみ、委託契約の相手方として保安業務を営むことができるとすることはできない。
(3) 自家用電気工作物の保安業務を営む権利は、元来、憲法上保障された国民の営業権として、広く国民が享受し得るものであり、このことは法人についても当てはまる。そして、国家は公共の福祉の観点から右の権利を制約し得るに過ぎないが、その場合においても、法律の定めによることが必要であるところ、自家用電気工作物についての法人の保安業務遂行の権利を制約する法律の明文規定は存在せず、また、その制約を省令等下位の法規範に委任する旨の規定も存在しないから、法人は保安業務遂行の権利を有するものである。そして、法人について、指定法人の指定を求める申請権を否定するとすれば、法人は、国家(通商産業大臣)の一方的裁量による指定を受けなければ、委託契約の相手方として保安業務を遂行することができなくなり、その指定を受けていない法人は、法によって認められた営業権を全く奪われることになるので、法は、法人に対し、指定法人の指定の審査を求める申請権を当然認めているものといわなければならない。
(4) 一般用電気工作物についての指定調査機関については、その指定を受けようとする者に申請権が認められている(法七五条一項)が、元来、自家用電気工作物と一般用電気工作物との区別は相対的なもので、その境界領域においては、両者に本質的な差異はないのであって、自家用電気工作物の保安業務を担当する指定法人の役割は、一般用電気工作物の保安業務を遂行する指定調査機関の役割と同質であり、また、保安業務の内容及びこれに必要とされる知識の面でも共通な部分が多分にある。したがって、法が指定法人と指定調査機関との間に指定を受けようとする者の申請権について差別を設けているものとは解されず、むしろ、指定法人についても法七五条一項を類推適用することが、電気事業の急速な進歩を考慮して法を制定した立法者の意思及び法の全体的構造に合致する。
(5) また、通商産業局長等の承認を受けて、一般用電気工作物の所有者又は占有者から一般用電気工作物の維持及び運用に関する保安の業務を受託する事業を行う規則六七条一号の法人(以下「承認法人」という。)についても、その承認を受けようとする者に申請権が認められている(規則六七条の二)が、承認法人は、一般用電気工作物の所有者等(設置者)との委託契約により自家用電気工作物の保守管理業務を行うもので、かかる法律関係は指定法人の行う保安業務の場合と同様であり、また、右の委託契約によって電気の供給者又は指定調査機関の行う法六七条一項の調査のひん度が軽減されることになるから(規則六七条一号)、承認法人は、指定調査機関の代行機関であるといえるところ、その役割及び保安業務の内容の点で指定調査機関と指定法人とに差異がないことは右(4)のとおりであるから、規則六七条の二の類推適用によっても、指定法人の指定を受けようとする者の申請権が認められる。
(五) 以上のとおり、規則七七条二項の「通商産業大臣が指定する法人」と定められている部分は、通商産業大臣の一方的裁量による指定権のみを認めて法人の申請権を否定するという趣旨のものではないと解すべきで、原告ら法人は、右指定を受ける申請権を有するものである。
4 拒否処分の存在
(一)(1) 被告は、原告イーデンの右申請書が到達した後、同原告を通商産業省庁舎に呼び出し、昭和五九年七月一六日に、出頭した同原告の代理人小柴文男及び同衛藤彰に対し、通商産業省資源エネルギー庁公益事業部技術課通商産業技官(通営班長)嶋田実(以下「嶋田」という。)、同技官金沢進及び同事務官小林孝夫において、本件申請の動機等を尋ねたが、本件申請に必要な要件等に関する具体的な説明は一切行わず、最後に、追って次回の呼出しをする旨告げた。
(2) その後、相当期間が経過しても、被告は再度呼出しを行わず、同原告の数回にわたる問合わせに対しても明確な回答をしなかった。
(3) そこで、同原告の代理人である右小柴文男が、昭和五九年九月二六日ころ、電話で、本件申請に関する処理状況を尋ねたところ、嶋田において、同原告の申請が認められないので、申請書を返戻したい旨を突然通告した。
(4) また、嶋田は、昭和五九年一〇月一五日、その余の原告らの申請についてもこれが認められない旨、同原告らの代理人である右小柴文男に電話で通告した。
(5) なお、原告らの本件申請に関する事務は、通商産業省設置法一八条、一九条、通商産業省組織令一五〇条に基づき、通商産業省において、電気に関する施設の工事、維持及び運用に関する事務並びに一般用電気工作物に関する調査業務の監督の事務等を所掌する資源エネルギー庁公益事業部技術課の受け持つところとなり、同課長平田辰一郎の指示で嶋田外二名がこれを担当していたところ、右(3)及び(4)の通告当時、被告又は通商産業省内部においては、右資源エネルギー庁公益事業部技術課のほか、同部計画課、同庁長官官房総務課、同省大臣官房総務課等関係各課の協議を経て、原告らの申請を拒否する旨の結論に達しており、嶋田は、本件申請に係る事務の直接の担当者として、右被告又は通商産業省内部の意思に基づき、右(3)及び(4)の通告をしたものである。
(二) 右(一)のとおり、嶋田は、原告の本件申請に係る事務を委ねられていた者であるところ、同人にした右(一)の(3)及び(4)の原告らの申請が認められない旨の通告は、内容的に被告又は通商産業省内部の意思に合致するものであり、かつ、原告ら代理人との間の事情聴取や折衝を経た上で外部に表示されているのであるから、本件申請に対する被告の棄却又は却下の処分としての外形を有するものである。
(三)(1) 嶋田は、通商産業省設置法一八条、一九条、通商産業省組織令一五〇条及び資源エネルギー庁公益事業部技術課長平田辰一郎の指示に基づき、被告から原告らの本件各申請に関する処分の権限を代行すべき旨命じられていたものであり、右代行の権限に基づいて右(一)の(3)及び(4)の通告をしたものであるから、右各通告は、本件各申請に対して被告のした処分というべきである。
(2) 仮に嶋田が原告らの本件各申請に関する処分を代行する権限を有していなかったとしても、嶋田は、本件各申請に係る事務の直接の担当者として、被告から、右事務に関する取扱いの権限を付与され、かかる権限に基づいて原告らの代理人と事情聴取及び折衝を重ねた上、同代理人に対し、右(一)の(3)及び(4)の通告をしたものであるところ、原告らは、右通告の当時、嶋田が本件各申請に関する処分の権限を代行する権限を有するものと信じ、かつ、右の経緯に照らして信ずべき相当な理由があったものというべきであるから、右各通告は、表見代理の法理により、本件各申請に対して被告のした処分というべきである。
(3) また、仮に、右(一)の(3)及び(4)の通告が、被告の行政処分としては、代行権限のない者がした点において又は被告の処分意思に基づかない点において瑕疵があるとしても、右各通告の内容は、結局は、被告又は通商産業省内部の意思に合致しているのであるから瑕疵は軽微であり、かつ、申請書を返戻する方式による拒否処分は、実務上しばしば担当者レベルでなされるので、外部からは、右処分が被告の処分意思に基づかないことを窺い知ることができず、その瑕疵が明白であるということもできない。したがって、右のような瑕疵があるとしても、右処分は取り消し得るに止まるものであるところ、現段階では、右処分が代行権限の不存在又は被告の処分意思の欠缺という理由で取り消される余地はないのであるから(原告の主張する取消事由は右と異なる。)、結局は、右処分は有効というべきである。
(四) 以上のとおり、被告は、原告らの本件申請に対し、昭和五九年九月二六日に原告イーデンの申請を、同年一〇月一五日にその余の原告らの申請をそれぞれ却下又は棄却する処分(以下「本件拒否処分」という。)をした。
5 拒否処分の違法
被告の本件拒否処分は、次の理由により違法である。
(一) 被告は、原告らに対し、指定法人の指定を受ける申請に必要な要件又は手続を何ら教示せず、かつ、この点についての弁明を与えないで、一方的に本件拒否処分をしたものであり、しかも、処分に当たって、何ら具体的、合理的理由を示すこともしなかった。したがって、本件拒否処分は、原告らの適正な行政手続を受ける権利を侵害するもので、憲法三一条に違反する違法がある。
(二) 法の趣旨、目的に照らせば、法人が指定法人の指定を受けるための要件は、当該法人内部に主任技術者免状の交付を受けた者がいることで足りると解されるところ、原告らは、いずれも右要件を具備しているものである。したがって、本件拒否処分は、原告らの営業の自由を侵害するものであって、憲法二二条、二九条一項に違反し、また、右要件を具備した法人が指定法人の指定を等しく受ける権利を侵害し、既存の指定法人と原告らを差別するものであって、憲法一四条に違反する違法がある。
(三) 原告らが右のように指定法人の指定を受けるための要件を具備しているにもかかわらず、あるいは、仮に、右要件が右(二)のとおりでないと解されるとしても、原告らが当該要件に該当するか否かについて何らの理由をも示さずに、本件拒否処分をすることは、既存の指定法人の当該事業分野における私的独占を助長することに帰するものである。したがって、本件拒否処分は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の趣旨に照らして違法である。
6 予備的請求の原因(不作為の違法)
仮に、被告による本件拒否処分の存在が認められないとすれば、被告は、原告らの本件各申請に対し、処分を行うに必要な相当期間を既に経過した現在に至るまで、何らの処分をもしていないことになり、右不作為は違法である。
7 よって、原告らは、主位的請求として、被告の各原告に対する本件拒否処分を取り消すことをそれぞれ求め、仮に、本件拒否処分が存在しないとすれば、予備的請求として、右6の不作為が違法であることの確認を求める。
二 主位的請求に対する本案前の主張
被告の原告らに対する本件拒否処分は、いずれも存在しない。
すなわち、後記のとおり、指定法人の指定は通商産業大臣がその裁量判断による一方的行為として行うものであって、原告らに法令上その指定を求める申請権が認められるものではないから、指定法人に指定することを求める旨の書面が被告のもとに提出されたとしても、被告としては、もとより、かかる書面に対するいかなる応答の義務をも有するものではない。
しかしながら、原告イーデンから指定法人に指定することを求める旨の昭和五九年五月二三日付けの書面が被告のもとに郵送された後、念のため同原告の真意を確認するために、嶋田外二名の職員が同原告の代理人小柴文男外一名から事情聴取したところ、同原告の意図は右書面の記載のとおり指定法人の指定を求めるものであることが判明した。そこで、同年九月二六日に右小柴文男から嶋田に対し電話による問合わせがあった際、嶋田は、このような申請は法令に根拠がなく申請権がない旨、また、処理方法については検討中である旨を告げ、さらに、最終的には申請は認めない、申請書は返戻したいと述べた。その後、その余の原告らから、同年九月二六日付けで、右原告イーデンからの書面と同様の趣旨の書面が被告のもとに郵送されたが、被告はこれに対しては何らの応答もしていない。
以上のとおり、原告イーデンから提出された書面については嶋田らにおいて事情聴取と電話での簡単な応答をしたのみであり、その余の原告らから提出された書面については何らの回答もしていないのであるから、被告において、却下であると棄却であるとを問わず、およそ処分と目されるような行為はしていない。したがって、原告らの主張する本件拒否処分は存在しておらず、原告らの主位的請求は、存在しない処分の取消を求める不適法な訴えである。
三 被告の本案前の主張に対する原告らの認否
原告イーデンを除くその余の原告らからの申請に対し、被告がなんらの応答もしていないとの事実は否認し、原告らに法令上指定法人の指定についての申請権が認められないので、被告が原告らの申請に対し応答の義務を有しないとの主張、原告らの申請に対し被告が処分と目されるような行為はしていないとの主張及び本件拒否処分が存在しないとの主張はいずれも争う。
四 請求の原因に対する被告の認否
1 請求の原因1は認める。
2 同2の(一)のうち、原告らが被告に対し主張の日時に主張の申請書と題する各書面を郵送し、これがそのころ被告に到達したことは認めるが、被告がこれを受理したことは否認し、その余の主張は争う。(二)は認める。
3 同3の(一)及び(二)は認める。(三)のうち、規則七七条二項が国家行政組織法に違反する疑いがある立法的に不備な規定であって解釈によってその不備を補わなければならないとの主張は争い、その余は認める。(四)及び(五)の主張は争う。
4(一) 同4の(一)の(1)のうち、嶋田が運営班長であることは否認し、その余は認める。なお、嶋田は運営班長の職務を事実上代行していたものである。(2)は認める。(3)のうち、主張の日時に小柴文男と嶋田とが電話で話し合ったこと及びその際嶋田が同原告の申請は認めない、申請書は返戻したいと述べたことは認め、その余は否認する。(4)は否認する。(5)のうち、電気に関する施設の工事、維持及び運営に関する事務並びに一般用電気工作物に関する調査業務の監督の事務が資源エネルギー庁公益事業部技術課の所掌事務であること並びに嶋田外二名が原告イーデンから提出のあった申請書に関し事情聴取等を担当したことは認め、その余は否認する。
(二) 同(二)ないし(四)は争う。
5 同5は争う。
6 同6のうち、被告が原告らから提出のあった申請書について何らの応答をもしていないことは認め、その余は争う。
五 被告の本案の主張
1 不選任承認制度の法適合性
自家用電気工作物の設置者に対し、その工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、主任技術者免状の交付を受けた者のうちから主任技術者を選任することを義務付けている主任技術者制度(法七二条一項)は、自家用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するためには、十分な知識及び技能を有する者をして右保安の監督に当たらせることが必要であるという観点から設置者による自主保安体制の一環として設けられたものであるが、自家用電気工作物にあっては、設備が多種多様であり、その規模等によって確保すべき保安のレベルに差があるとともに、多数の零細な自家用電気工作物の設置者の中には専任の主任技術者を雇用することが困難な者もあり、自家用電気工作物の設置者に一律に大きな負担を課すのは相当でないとの配慮から、法七二条一項により主任技術者制度の運用を委任された通商産業省令(規則七七条二項)が、一定規模以下の中小自家用電気工作物の設置者につき、電気管理技術者(本件告示一条に定められた規則七七条二項所定の委託契約の相手方となり得る者をいう。以下同じ。)又は指定法人への保安業務の委託を認め、このような代替措置がとられ、かつ、電気工作物の保安上支障がないと認められる場合に限り、主任技術者の専任義務を免除することとしたのが不選任承認制度である。
同制度において、保安業務の委託をする相手方となり得る個人(電気管理技術者)については主任技術者免状を有することが要件とされているし(本件告示一条)、指定法人の指定を受けた法人(現在は、財団法人北海道電気保安協会、同東北電気保安協会、同関東電気保安協会、同中部電気保安協会、同北陸電気保安協会、同関西電気保安協会、同中国電気保安協会、同四国電気保安協会、同九州電気保安協会及び同沖縄電気保安協会が右の指定を受けている。)が受託する場合も、主任技術者免状を有する従業員をして保安点検に当たらせることが必要とされている(「主任技術者制度の運用について」(昭和四〇年七月一日付け四〇公局第五九三号通商産業省公益事業局長通牒)、以下「本件通牒」という。)から、不選任承認制度は、実質において、十分な知識経験を有するものをして自家用電気工作物の保安の監督をさせるべきものとした法七二条一項の趣旨、目的を充足するものであり、雇用契約による主任技術者の選任の代替として委託契約による主任技術者の選任を認めたものといって差し支えない。
したがって、不選任承認制度を定めた規則七七条二項は、法七二条一項の委任の範囲内にあって、これに反するものでないことは明らかであり、国家行政組織法一二条一項に違反する疑いのある立法的に不備のある規定であるとする原告らの主張は失当である。
2 申請権の不存在
以下に述べるとおり、原告らは指定法人の指定を受ける申請権を有するものではなく、したがって、原告らが被告に対し各申請書を提出した行為は法令に基づく申請に当たらないので、被告がこれに対し何らの応答をもしなかったことが不作為の違法確認の訴えの対象である不作為に当たるものではない。
(一) 不選任承認制度が法七二条一項による通商産業省令による委任の範囲内にあることは、右1に述べたとおりであるから、同制度における指定法人の指定方法についても同省令に委任されているものと解することができる。右委任に基づく規則七七条二項は、自家用電気工作物の保安業務を委託する相手方のうち、指定法人については「別に告示する通商産業大臣が指定する法人」と定めているので、通商産業大臣は、告示の形式で指定法人の指定を行うことになるが、規則七八条に申請手続を定めた規定がある主任技術者不選任、主任技術者兼任の承認と異なり、指定法人の指定については、これに関する申請手続を定めた規定が存在しないのであるから、規則上、指定法人の指定は申請を待って行われることは予定されておらず、通商産業大臣の裁量判断による一方的行為であることは明らかである。
(二) 規則七七条二項の制定の経緯は、以下のとおりである。
昭和四六年六月二三日通商産業省令第五九号による改正前の電気事業法施行規則七七条二項は、自家用電気工作物に係る実情を配慮して、一定規模以下の事業場については、通商産業大臣又は通商産業局長が承認したものに限り主任技術者の選任を免除していたところ、右承認の基準として本件通牒が出されて、委託を受けて電気工作物の保安に関する業務を行う公益法人であって、通商産業大臣が適当と認めたもの等との間で需要設備の工事、維持及び運用の保安に関し契約を締結していること等の要件を満たし、かつ、電気工作物の工事、維持及び運用の保安上支障がないと認められた場合に限り通商産業大臣の承認がなされるものとされていたが、右公益法人としては電気保安協会だけを想定し、通商産業大臣は、昭和四〇年から同四一年にかけて前記各電気保安協会(財団法人沖縄電気保安協会を除く。)の設立を認可してその実施に当たらせていた。
その後、前記の昭和四六年の規則の改正により、右通牒の取扱いは現行の規則七七条二項に取り入れられて、指定法人は通商産業大臣が告示をもって指定することとされ、右規則改正と同日付けの本件告示をもって通商産業大臣は何らの申請に基づかず、一方的に前記各電気保安協会(財団法人沖縄電気保安協会を除く。)を指定法人に指定した(なお、沖縄県の復帰に伴い、昭和四七年に財団法人沖縄電気保安協会が追加指定された。)。
原告らは、指定法人の指定について申請手続を定めた明文の規定がないことを立法的不備によるものであると主張するが、右の経緯に照らして明らかなとおり、指定法人に指定すべき法人は、規則制定当時、既に予定されていて申請を待つまでもなかったとともに、電気保安協会以外の法人が指定されることは予定されていなかったのであり、申請手続の明文規定がないのは申請権を認めない趣旨から出たものであるから、原告らの右主張は失当である。
(三) 自家用電気工作物についての主任技術者制度は、電気に関する一定の知識、技能、実務経験を有する者として主任技術者免状の交付を受けて資格を付与された者に、自家用電気工作物の保安の監督を行わせるものであり、いわば個人(自然人)の能力に依拠して保安確保を図るものであるから(主任技術者が自然人に限られることは、法七二条一項、二項の文言に照らして明白である。)、当該個人が本来の職務目的から逸脱することのないよう規制監督を行う必要があり、そのため、法は、主任技術者は誠実にその職務を行わなければならないとし(法七四条五項、五七条一項)、また、通商産業大臣は、主任技術者が法及び法に基づく命令の規定に違反したときは、その主任技術者免状の返納を命ずることができるとしている(法五五条)。
ところで、主任技術者制度の運用上、不選任承認制度が設けられ、不選任承認制度のなかに指定法人制度が存在するが、もともと主任技術者は個人であるから主任技術者の選任に代替する不選任承認制度においても、保安業務の受託者を個人に限定すべきであるとも考えられる。
しかし、自家用電気工作物の保安業務の受託者を個人のみとした場合には、経済法則の赴くまま、受託すべき保安業務の対象である自家用電気工作物の逆選別が行われ、その結果、採算性の低い遠隔地の自家用電気工作物にあっては保安業務の受託者が得られないといった憂慮すべき事態が現出するおそれがある。また、自家用電気工作物の保安業務の一般的レベルの維持向上を図るために、営利性を度外視し得る中核的受託機関の存在が不可欠であるともいえる。指定法人制度が設けられたのは、かかる配慮によるものである。
したがって、指定法人たるにふさわしい法人であるとするためには、(イ)営利を目的としない公益法人であること、(ロ)電気の保安を業務目的とすること、(ハ)一定地域を漏れなくカバーできる人的及び物的組織を有すること、(ニ)相当数の主任技術者免状の取得者を擁し、随時随所に配備することが可能であること、(ホ)常に保安業務の質的レベルの維持向上を図る体制にあること、(へ)以上の事項について、主務官庁の立場から常時指導監督が可能であること等の要件を具備する必要があるが、そのような法人は、指定法人制度の発足以来現在に至るまで電気保安協会以外に存在していなかった。
これに対し、営利法人は、(ト)収益採算性を重視し、(チ)主務官庁がその監督をするにあたり、業務及び会計の報告を求め、職権による強制立入検査等の強制手段をとるといった種類の監督権の行使が不可能であって、その結果、その業務の適正な遂行を監視することが困難であり、(リ)その参入によって過当競争を生じ、保安業務の質的低下をもたらすおそれがあるなど、指定法人としてふさわしくないことは明らかである。
通商産業大臣は、指定法人の指定に当たり、右の趣旨に沿って、前記各電気保安協会を指定法人として最も適当であり、それ以外の法人には右のような適格性がなく、これを指定法人とすることは適切でないと判断したものである。
右のように、不選任承認制度のもとで、保安業務の受託者となり得る個人と法人とでは、その位置付け、役割を異にし、また、法人の場合には、個人と異なり、その設立目的等に基づく法的性質の相違によって、差異があるから、個人と法人とで別異の取扱いをすることには合理性が存在し、憲法一四条に違反するものではない。
(四) 右(三)のとおり、自家用電気工作物についての主任技術者制度は、自家用電気工作物の電気の保安確保という公益目的達成のため、一定の適格者に主任技術者の資格を付与し、保安の監督の業務を行わせるものであり、また、主任技術者制度の運用上設けられた不選任承認制度も、主任技術者制度を実態に即して運用すること、すなわち、自家用電気工作物の保安確保とその設置者の負担との調和を図ることを専ら意図したものであって、保安業務の受託者の業務を収益事業として保護することは、法の趣旨、目的には含まれず、仮に、不選任承認制度が設けられた結果、指定法人に指定された法人の保安業務が営利事業として成り立つことがあっても、それは、右制度の反射的効果であるに過ぎない。したがって、不選任承認制度のもとで、受託者となり得る個人についての要件、指定法人の指定の方法等をどのように定めるのが適切であるかは、専ら右の主任技術者制度及び不選任承認制度の設けられた趣旨、目的に沿って判断されるべきことがらであり、その趣旨、目的に照らせば、指定法人の指定を通商産業大臣の裁量判断による一方的行為として行うことも何ら合理性を欠くものではなく、これが法人の営業権を侵害するものではない。
(五) 原告らは、一般用電気工作物についての指定調査機関について、その指定を受けようとする者の申請権を定めた法七五条一項の類推適用により、指定法人についてその指定を受けようとする者の申請権の存在を認めるべきであるとし、その根拠として、指定法人の役割と指定調査機関の役割とが同質であると主張する。
しかし、一般用電気工作物の保安に関する規定と自家用電気工作物の保安に関する規定とは、法規制の目的と構造とを異にしている。
すなわち、一般用電気工作物にあっては、その保安責任は設置者である一般需要家にあるが、その電気知識が必ずしも十分とはいいがたい実情に鑑み、法は、電気を供給する者(電気事業者)に、一般用電気工作物が維持基準に適合しているかどうかを調査し、基準不適合の一般用電気工作物について、需要家にとるべき措置とその措置をとらなかった場合に生ずる結果とを通知すべき調査通知義務を課している(法六七条)。このように、一般用電気工作物の保安体制は、需要家の保安義務とこれを補完する電気の供給者の調査通知義務とのいわば二元的な構造となっており、指定調査機関はその一方である電気の供給者の調査通知義務の代行機関として(法六九条)、右の保安体制に組み込まれているものである。これに対し、自家用電気工作物については、一般用電気工作物における電気の供給者の調査通知義務に当たるものがなく、あくまでその設置者である事業者の自主的な一元的保安責任体制が貫かれており、主任技術者や指定法人は右の一元的保安体制に組み込まれた存在である。
したがって、指定調査機関と指定法人とは、その位置付け、その属性、その内容などにおいて法体制を異にするものであるから、前者に関する規定を後者に類推する関係には立ち得ないものであり、原告らの右主張も失当である。
六 被告の本案の主張に対する原告の認否
1 被告の主張1のうち、不選任承認制度を定めた規則七七条二項が法七二条一項の委任の範囲内にあり、これに反するものではないとする結論は争わないが、同制度は、後述のとおり、専業主任技術者制度の目的、趣旨を受け継ぎ、かつ、社会的ニーズの将来の傾向を考慮して立法化されたもので、法七二条一項、二項の目的及び精神と十分整合性を有する制度である故に有効と解すべきものである。
2(一) 同2の冒頭の主張は争う。
(二) 同2の(一)のうち、規則七七条二項が指定法人について主張のとおり定めていること及び指定法人の指定の申請手続を定めた規定が存在しないことは認め、その余は争う。
(三) 同(二)のうち、主張の内容の規則及び通牒が存在したこと、通商産業大臣が昭和四〇年から同四一年にかけて主張の各電気保安協会の設立を認可して、委託を受けてする電気工作物の保安業務の実施に当たらせていたこと、規則の改正により右通牒の内容が規則に取り入れられて指定法人は通商産業大臣が指定することとされ、本件告示により主張の各電気保安協会が指定されたことは認め、その余は争う。
(四) 同(三)ないし(五)は争う。
七 被告の主張に対する原告の反論
1 不選任承認制度の立法趣旨
旧電気事業法(昭和六年法律第六一号、以下「旧法」という。)以来の主任技術者制度における主任技術者の選任とは、本来は、主任技術者を常勤の形態で選任することをいうものと解されるが、旧法下において、自家用電気工作物施設が増加することにより、相対的に主任技術者免状の取得者が不足し、あるいは、その常勤形態での選任が自家用電気工作物の設置者にとって過重な経済的負担を強いるものとなったため、主任技術者免状の取得者の名義のみを借り、実際には主任技術者が常勤していないいわゆる名義貸しの弊害が生ずるようになった。
他方、法が主任技術者の選任を常勤に限っている以上、主任技術者免状の取得者が複数の施設の主任技術者として保安業務を専門として営むことは不可能であり、その専門性にかかわらず、社会的経済的地位はきわめて低いものであった。
かかる背景のもとで、昭和三六年に当時の自家用電気工作物施設規則二五条の主任技術者兼任制度の一態様として主任技術者免状の取得者が複数の施設の保安業務を行う制度が認められ、これによって、主任技術者免状の取得者が保安業務を専門に行うことが可能となってその経済的活動の範囲が拡大するに至った。なお、このような保安業務を行う主任技術者免状の取得者は、当時、専業主任技術者と称された。
その後、現行の電気事業法が施行され、右自家用電気工作物施設規則の効力は消滅したが、専業主任技術者制度そのものが同時に消滅しなければならないといった社会的背景の変化はなく、むしろ、産業構造の高度化、複雑化に伴い、社会的ニーズの傾向としては、専業主任技術者の必要性はますます増大し、かつ、質量双面にわたる充実化が求められ、その保安業務の遂行形態は、かかる社会的ニーズに追従すべく、個人形態から組織的な形態へと脱皮、変容しつつあった。
こうした沿革及び社会的背景を考えれば、現行の規則七七条二項に基づく不選任承認制度は、右専業主任技術者制度を引き継ぎ、かつ、社会的ニーズの傾向を考慮して制定された制度であり、その制度の趣旨は、主任技術者免状の取得者が個人的にあるいは組織的に複数の施設の保安業務を専門に行うことを認めて名義貸しの防止と主任技術者免状の取得者の地位向上を図り、もって、電気の保安を確保することであると解すべきであり、被告の主張において、主任技術者免状の取得者の社会的経済的地位並びに社会的ニーズの傾向による決定付けを欠いているのは不当である。
2 指定法人制度の立法趣旨及び適格要件
(一) 指定法人は、右1の不選任承認制度の目的、趣旨に基づいて、保安業務を遂行する法人であって、その意味では電気管理技術者と制度の目的、機能を同じくする同質的存在であり、ただ電気管理技術者が個人を契約主体として規則七七条二項の保安業務を受託するのに対し、指定法人は法人自体が契約主体となって右の保安業務を受託するものである。
被告は、指定法人制度の立法趣旨について、法七二条一項、二項の文言から主任技術者は元来個人に限られるので、主任技術者の選任に代替する不選任承認制度においても、保安業務の受託者を個人に限定すべきであるともいえるが、これを個人のみとした場合には、遠隔地の自家用電気工作物が逆選別されて、保安業務の受託者が得られないという事態が生ずることがあるので、指定法人制度が設けられたものである旨主張する。
しかし、まず、主任技術者が個人に限られるという点については、法七二条二項の「主任技術者免状の交付を受けていない者」との文言が、法令用語としての「者」の用い方に照らして自然人、法人いずれをも含むと考えられるのみならず、仮に法七二条が主任技術者を個人に限定したものと解するとすれば、規則七七条二項において、法人を保安業務の主体とし、かつ、これに個人である電気管理技術者とは異なった位置付けや役割を付与することは、法の委任の範囲を超えることになって許されないはずであるから、被告の主張自体が矛盾撞着している。
また、逆選別の事態が生ずることに備えて、指定法人制度が設けられたとする主張についても、専業主任技術者制度の当時から現在まで、主張のような逆選別の実態が現実に生じた事実は存在しないし、そのような事態が生ずる可能性が問題とされたことさえなかったのであるから、被告の右主張は、そもそも立法事実に関する根拠を欠くものである。のみならず、自家用電気工作物の保安業務の受託者は二時間以内に受託先の事業場に到達する距離の範囲内にあることが必要とされているところ(本件告示一条四号)、最大距離でこの程度であれば、採算性を問題にする余地がないのであり、有限の自家用電気工作物施設に対し複数の施設の保安業務を受託し得る電気管理技術者が受託をめぐる競争を繰り広げる不選任承認制度のもとにおいて、主張の逆選別の事態が生ずることは観念的にもあり得ない。また、仮に遠隔地の自家用電気工作物について保安業務の受託者からの逆選別を防止する必要があるものとすれば、受託者たるべき者に対し、受託拒絶禁止の一般的義務を前提とする監督規則を置くことが有効かつ妥当な方策である。なお、現在、指定法人に指定されている各電気保安協会が、都市部において、委託者の獲得のため電気管理技術者と熾烈な競争を展開している現状は、被告の主張する立法趣旨からかけ離れている。
(二) 被告はまた、指定法人たるにふさわしい法人の要件として、(イ)営利を目的としない公益法人であること、(ロ)電気の保安を業務目的とすること、(ハ)一定地域を漏れなくカバーできる人的及び物的組織を有すること、(ニ)相当数の主任技術者免状の取得者を擁し、随時随所に配備することが可能であること、(ホ)常に保安業務の質的レベルの維持向上を図る体制にあること、(ヘ)以上の事項について、主務官庁の立場から常時指導監督が可能であることが必要であり、営利法人は、(ト)収益採算性を重視し、(チ)主務官庁がその監督をするにあたり、業務及び会計の報告を求め、職権による強制立入検査等の強制手段をとるといった種類の監督権の行使が不可能であって、その結果、その業務の適正な遂行を監視することが困難であり、(リ)その参入によって過当競争を生じ、保安業務の質的低下をもたらすおそれがあると主張する。
しかし、右(ロ)及び(ホ)は当然のことであって、特に要件として採り上げるほどのことではない。右(イ)及び(ト)が、収益採算性を重視する営利法人は、採算性の低い遠隔地における保安体制の確保を図る上で役に立たないという趣旨であるとすれば、公益法人といえども、財政的破綻を避けるためには、採算性を度外視し得ないのであるし、また、指定法人に営利法人の参入を許したとしても、これがため採算性の低い地域における保安体制の確保に害になるという関係に立たないのみならず、むしろ逆に保安業務の受託の供給が増えることによる競争の激化の結果、右の地域の保安体制も充実化すると考えられるのであるから、被告の主張する立法趣旨のもとにおいても、指定法人が公益法人であることを必要とするという理由はない。右(ハ)及び(ニ)については、採算性の低い地域の保安体制を確保する必要があるとしても、そのために、採算性の低い地域以外の地域を含めて一定地域の保安業務を遂行し得る人的物的組織を有し、主任技術者免状の取得者を相当数擁して随時随所に配備することが可能であることが必要である理由は全くない。(ヘ)及び(チ)については、主務官庁からの指導監督の必要性が肯定できるとしても、国民の側の与り知らない指導監督についての法的根拠の有無によって、指定法人の指定を受けられるか否かが左右されるとすること自体が不当であるし、また、現行の電気事業法の法体系のもとにおいても、指定法人の指定の撤回、その従業員である主任技術者免状の取得者の資格の剥奪等の手段は取り得るのであり、行政的な指導監督は十分可能であるから、営利法人については主務官庁による指導監督が困難であるとする被告の主張は失当である。(リ)については、指定法人に営利法人の参入を許し、過当競争になれば保安業務の質が低下するとの根拠は全くないし、むしろ、競争による市場原理の作用が働き、より良質のサーヴィスが市場に提供されると考えるほうが、経験法則に合致する。
したがって、被告の右主張も失当である。
3 一般用電気工作物及び自家用電気工作物の各保安体制の構造
被告は、一般用電気工作物の保安体制は需要家の保安義務と電気の供給者(電気事業者)の調査通知義務との二元的構造であって指定調査機関は電気の供給者の調査通知義務に組み込まれているのに対し、自家用電気工作物の保安体制は設置者である事業者による一元的構造であり、主任技術者や指定法人はその一元的保安体制に組み込まれた存在である旨主張する。
しかしながら、一般用電気工作物であれ、自家用電気工作物であれ、電気工作物の保安責任が設置者にあることは変わりがなく、右各保安責任を前提として、法は、一般用電気工作物については電気の供給者または指定調査機関の調査通知義務の履行という形態で一般用電気工作物の保安を補強し、他方、自家用電気工作物については、その危険性及び費用負担に関する経済力に鑑み、設置者に対して特に主任技術者の選任義務を課し、又は、不選任承認制度のもとで、主任技術者の選任に代えて電気管理技術者又は指定法人との委託契約により保安の確保を図っているのであり、いずれも、設置者の保安責任を前提にこれを補強ないし補完するものとして電気の供給者若しくは指定調査機関並びに主任技術者、電気管理技術者若しくは指定法人が存在するのであるから、いずれも二元的保安体制という点で共通している。
もっとも、一般用電気工作物については設置者と保安業務遂行者との者に委託契約等の契約関係が存在しないのに対し、自家用電気工作物の場合には、主任技術者は設置者による選任に基づいて、あるいは、電気管理技術者又は指定法人は設置者との間の委託契約に基づいて保安業務を遂行するというように契約関係があるという相違があるが、右の契約は法により自家用電気工作物設置者に強制されたものであって、法は、設置者が電気に関する知識を有するとはいい難いために、その保安義務を補完する電気保安の専門家である主任技術者、指定法人又は電気管理技術者を電気事業法の体系に組み入れているのであり、現状は、主任技術者、指定法人又は電気管理技術者が専門家としての独自の立場で保安業務を遂行しており、設置者は保安業務をこれらのものに完全に委ねているのであるから、自家用電気工作物の場合に指定法人等が設置者による一元的保安体制の中に組み込まれているとはいえない。
第三 証拠<省略>
理由
第一本件主位的請求の適否について
一請求の原因1の事実、同2の(一)のうち、原告イーデンが昭和五九年五月二三日に、その余の原告らが同年九月二六日に、それぞれ規則七七条二項所定の指定法人の指定を受けることを求める旨の申請書を被告に郵送し、これが被告に到達したこと及び同(二)の事実は当事者間に争いがない。
二原告らの本件主位的請求は、被告が原告らの右各申請書を受理した上、昭和五九年九月二六日に原告イーデンの申請を、また、同年一〇月一五日にその余の原告らの申請を、それぞれ却下又は棄却する本件拒否処分をしたものとして、その取消しを求めるものであるところ、被告は、本件拒否処分の存在を争うので、その存否について判断する。
1 原告イーデンの右申請書が到達した後、被告が同原告を通商産業省庁舎に呼び出し、昭和五九年七月一六日に出頭した同原告の代理人小柴文男及び同衛藤彰に対し、通商産業省資源エネルギー庁公益事業部技術課通商産業技官である嶋田及び金沢進並びに同事務官である小林孝夫において、本件申請の動機等を尋ねたが、本件申請に必要な要件等に関する具体的な説明は一切行わず、最後に、追って次回の呼び出しをする旨告げたこと、その後、相当期間が経過しても、被告は再度の呼び出しを行わず、同原告の数回にわたる問合わせに対しても明確な回答をしなかったこと、昭和五九年九月二六日頃、同原告の代理人である右小柴文男が、電話で、嶋田と話した際、嶋田において、同原告の申請は認めない、申請書は返戻したいと述べたことは、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び右一の争いのない事実に、<証拠>を総合すると、
(一) 原告イーデンの右申請書に係る指定法人の指定を受けることを求める申請については、通商産業省内部において主任技術者の選任に関する業務を所掌する資源エネルギー庁公益事業部技術課が主管課としてその処理を担当し、同課長平田辰一郎の指示で、同課の運営班長の職務を事実上代行していた嶋田が検討を開始したこと、
(二) 指定法人の指定を受けることを求める申請は前例がなく、主管課としては、その処理に当たり、関係各課と協議をすることが必要であったところ、右協議に際して説明を行う立場にあった嶋田は、事前に原告イーデンから申請の動機等について事情聴取をするため、同原告の申請代理人である小柴文男らを通商産業省庁舎に呼び出し、昭和五九年七月一六日、嶋田並びに通商産業事務官小林孝夫及び同技官金沢進において、出頭した小柴文男らから、自家用電気工作物の保安業務を法人組織で営むことにより資本、人材、技術等の結集を図ることができるメリットがある等の説明を受けて、同原告の申請の動機を了知したが、後日さらに質問をする必要が生じた場合に備えて再度の事情聴取が有り得ることを予告し、指定法人の指定の要件についての説明又は右要件の該当性に関する質問等は一切行わず、同日の事情聴取を終わらせたこと、
(三) 平田辰一郎及び嶋田らは、右事情聴取の結果を踏まえ、右申請の処理に関係する資源エネルギー庁公益事業部計画課、同庁長官官房総務課及び本省大臣官房総務課の各課長及び係官ら担当者と協議検討をし、結局、原告イーデンから再事情聴取をするまでもなく、同年九月中旬ころ、法令上、指定法人の指定を求める申請を認める根拠がないので、同原告は右申請の申請権を有するものではない旨の結論を出したが、同原告の申請に対する具体的な処理方法及び処理方法を決定する際の決裁者の範囲については結論に至らず、協議が継続されていたこと、
(四) 他方、小柴文男は、原告イーデンの申請に関し、右(二)の事情聴取後、嶋田に対し、数回にわたり電話で再事情聴取の日取りなどの問合わせをしたが、明確な返答を得られなかったところ、同人が同年九月二五日にした問合わせに対し、同月二六日、嶋田は、小柴文男に架電し、右(三)の協議結果を踏まえて、「原告イーデンの申請については、法令上、申請権の根拠がなく認めることができない。申請の処理方法は内部で検討中である。申請書は返戻したい。」旨を伝え、さらに、小柴文男が拒絶処分を文書によって行うことを求めたのに対し、申請の処理方法として文書によることがあり得る旨を申し述べたこと、
(五) また、小柴文男は、同年九月二六日、原告イーデン以外の原告らの申請代理人として、同原告らに係る指定法人の指定を求める申請書を被告に宛て郵送し、右各申請書はそのころ通商産業省に到達して、原告イーデンの申請と同様、資源エネルギー庁公益事業部技術課が主管課としてその処理を担当し、原告イーデンの申請と併せ、その処理方法等についての右(三)の関係各課の担当者の協議の対象とされたこと、
(六) 小柴文男は、同年一〇月一二日、嶋田に宛て、原告イーデンの申請に関し、「昭和五九年九月二六日貴官より、右申請は拒絶されるべきもので、明確な御回答は所定討議手続を経た後に書面で下さるとの御通知を受けました。つきましては、申請人は今後の態度等を決定致したいと思いますが、いま現在の処分不確定の状況に鑑み、ここに、速やかなる書面による御回答をお願い申し上げます。」との、また、原告イーデン以外の原告らの申請に関し「速やかな御回答を併せお願い申し上げます。」との、それぞれ、書面による処分を求める趣旨の書状(甲第三一号証の一)を発し、さらに、同年一一月二二日、被告に宛て、原告らの申請に関し「既にこれまでに、通商産業技官嶋田実氏を介して各申請がいずれも拒否処分にされた旨の電話連絡を正に受けておりますが、申請人らは、右趣旨を形式的に明確にするために書面による貴大臣の拒否処分(却下又は棄却)を受けておきたいと考えております。以上の次第ですので、再度、右拒否処分の旨を記載した書面を頂きたくここにお願い申し上げます。」とのやはり書面による拒否処分を求める旨の書状(甲第三二号証の一)を発し、これらはいずれも、そのころ、到達したこと、
(七) 通商産業省内部において、右(三)の関係各課の担当者による協議が継続されていた原告らの申請に対する具体的な処理方法及び処理方法を決定する際の決裁者の範囲については、その後も結論を出すに至らなかったところ、同年一二月一四日、原告らから、原告らの各申請に対し、被告が拒否処分をしたとして、その取消しを求める本訴が提起されたことにより(原告らの本訴提起の事実及びその提起日は、記録上明らかである。)、検討協議を中断したまま現在に至っていること、
以上の事実を認めることができ、<証拠>中、右認定に反する部分は措信し得ない。
なお、原告らは、昭和五九年一〇月一五日に、嶋田が原告イーデンを除く原告らの申請についてこれが認められない旨電話で通知した旨主張し、<証拠>中には右主張に沿う部分があるが、右供述記載及び証言の右部分は、いずれも証人嶋田実の証言に照らして直ちに措信することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
そして、右事実によると、原告らの申請に対して被告はいまだ棄却又は却下の処分をしていないものと推認することができる。
2 原告らは、原告イーデンの申請に関し、右申請に係る事務を委ねられていた嶋田が昭和五九年九月二六日にした同原告の申請は認められない旨の電話による通告は、内容的に被告又は通商産業省内部の意思に合致するものであり、かつ、原告ら代理人との間の事情聴取や折衝を経た上で外部に表示されているのであるから、同原告の申請に対する被告の棄却又は却下の処分としての外形を有するものである旨主張する。そして、原告イーデンの申請に関し、通商産業省内部においてその検討処理に当たっていた嶋田が同原告の申請につき、申請代理人である小柴文男らから事情聴取をしたこと、その後、昭和五九年九月二六日に、嶋田は、小柴文男に対し、同原告の申請はこれを認めることができないものである旨、また、同原告に申請書を返戻したい旨電話で申し述べたこと、同原告の申請が認められない旨の嶋田の発言は、通商産業省内部の関係各課の担当者が検討協議した結果を踏まえたものであることは、右1のとおりである。
しかしながら、右事情聴取は、同原告の申請の動機等を尋ねたに止まるものであって、申請の要件を示してその該当性に関する事実について質問する等、右申請について実体判断がされることを前提とし、あるいは期待させる内容のものではないこと、嶋田が昭和五九年九月二六日に小柴文男に対し、電話で同原告の申請が認められない旨を申し述べた際、右申請については、法令上、申請権の根拠がなく、右申請の処理方法は通商産業省内部で検討中である旨を併せ告げていること、小柴文男自身が同年一〇月一二日に嶋田に宛て、「貴官より、右申請は拒絶されるべきもので、明確な御回答は所定討議手続を経た後に書面で下さるとの御通知を受けました。」、「いま現在の処分不確定の状況に鑑み、ここに、速やかなる書面による御回答をお願い申し上げます。」等の記載があって原告イーデンの申請に対する処分が未だされていないことを前提とし、右処分を書面によってすることを求める内容のものと解される書状を発していることも、右1のとおりであって、右各事実を併せ考えると、前記の、原告イーデンの申請の検討処理に当たっていた嶋田が申請代理人小柴文男らから事情聴取をしたこと、その後、昭和五九年九月二六日に小柴文男に対し、同原告の申請はこれを認めることができないものであり、申請書を返戻したい旨電話で申し述べたこと、同原告の申請が認められない旨の嶋田の発言は、通商産業省内部の関係各課の担当者が協議検討した結果を踏まえたものである等の事実が認められるからといって、嶋田の小柴文男に対する右昭和五九年九月二六日の電話での発言は、到底、原告イーデンの申請に対する被告の棄却又は却下の処分の告知とはみられず、したがって、右処分の外形を有しないものというべきであって、原告らの前記主張は採用し難い。
そして、他に同原告の申請に対して被告が棄却又は却下の処分をしていないとの前記推認を覆すに足りる証拠はない。
3 また、原告らは、原告イーデンを除くその余の原告らの申請についても、嶋田が、昭和五九年一〇月一五日に、同原告らの代理人である小柴文男に対して、これが認められない旨電話で通告したとして、同原告らの申請に対する被告の棄却又は却下の処分があった旨主張するが、右電話通告の事実が認められないことは右1のとおりであって、右主張は採り難く、また、他に同原告らの申請に対して被告が棄却又は却下の処分をしていないとの前記推認を覆すに足りる証拠はない。
三以上のとおり、原告らの主張する本件拒否処分の存在はこれを認めることができないから、本件拒否処分の取消しを求める本件主位的請求に係る訴えは、いずれも、訴訟の対象を欠くものとして不適法である。
第二本件予備的請求の当否について
一被告が、原告らの右各申請書に係る申請に対し、現在に至るまでなんらの処分等をしていないことは、第一に述べたところ及び弁論の全趣旨に徴し明らかである。
本件予備的請求は、右の不作為について、これが違法であることの確認を求めるものであるが、不作為の違法確認の訴えにおける不作為の違法性は、法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分等をすべきにかかわらず、これをしない場合に認められるものであるところ、被告は、原告らのした規則七七条二項所定の指定法人に指定することを求める申請が法令に基づくものであることを争うので、以下、右の点について検討する。
二法七二条一項は、自家用電気工作物を設置する者は、自家用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、通商産業省令で定めるところにより、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、主任技術者を選任しなければならないとし(ただし、通商産業大臣の許可を受けた場合には、主任技術者免状の交付を受けていない者を主任技術者として選任することができるとされている(同条二項)。)、自家用電気工作物の保安の確保のために、その設置者に対し、主任技術者の選任を義務付けている。ところが、法七二条一項に基づく規則七七条は、その一項において、事業場又は設備ごとに、主任技術者免状の種類を定め、当該種類の主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、主任技術者の選任を行うものとする旨を定めるが、他方、二項において、自家用電気工作物のうち最大電力五〇〇キロワット未満の需要設備のみに係る特定の事業場のうち、当該需要設備の工事、維持及び運用に関する保安の監督に係る業務を委託する契約を、別に告示する要件に該当する者(電気管理技術者)又は別に告示する通商産業大臣が指定する法人(指定法人)と締結しているものであって、保安上支障がないものとして通商産業大臣等の承認を受けたもの等については、同項の規定にかかわらず、主任技術者を選任しないことができるとし、いわゆる不選任承認制度を採用する。
そこで、右不選任承認制度を採用する規則七七条二項が主任技術者の選任を義務づける法七二条一項の委任の範囲内にあるといい得るか否かが問題となるので、まず、この点について検討を加える。
1 電気工作物とは、発電、変電、送電若しくは配電又は電気の使用のために設置する機械、器具、ダム、水路、貯水池、電線路その他の工作物(船舶、車両又は航空機に設置されるものその他の政令で定めるものを除く。)をいい(法二条七項)、電気事業(電気の供給事業をいい、一般の需要に応じて電気を供給する事業である一般電気事業及び一般電気事業者にその一般電気事業の用に供するための電気を供給することを主たる目的とする卸電気事業に分類される(法二条一項、三項)。)の用に供する電気工作物(法第二章第四節)及びそれ以外の電気工作物(法第三章)に分類され、後者がさらに一般用電気工作物及び自家用電気工作物に分類される。一般用電気工作物及び自家用電気工作物は、主に電気を受電してその受電に係る電気を使用するための電気工作物であり、概ね次のとおり区分される(法六六条、規則六六条)。
(一) 一般の事業場に設置するものにあっては、受電電力の容量が五〇キロワット以上の場合においては六〇〇ボルト以下の電圧で、受電電力の容量が五〇キロワット未満の場合においては七〇〇〇ボルト以下の電圧でそれぞれ受電する電気工作物が一般用電気工作物とされ、右各受電電力の容量ごとに右電圧を超える電圧で受電する電気工作物が自家用電気工作物に該当する。
(二) 劇場、公会堂その他公衆の出入りする所定の場所に設置するものにあっては、受電電力の容量が二〇キロワット未満で、かつ、七〇〇〇ボルト以下の電圧で受電する電気工作物が一般用電気工作物とされ、二〇キロワット以上の受電電力の容量で、又は、七〇〇〇ボルトを超える電圧で受電する電気工作物が自家用電気工作物に該当する。
(三) 火薬類を製造する事業場その他所定の危険施設等に設置するものは、自家用電気工作物に該当する。
(四) 以上にかかわらず、受電の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む。)においてその受電に係る電気を使用するための電気工作物以外の電気工作物又はその受電のための電線路以外の電線路によりその構内以外の場所にある電気工作物と電気的に接続されている電気工作物は、自家用電気工作物に該当する。
なお、具体的には一般用電気工作物には、低圧で電気の供給を受ける家庭用ないし商店用の電気工作物が該当し、自家用電気工作物には、相当量の電気の供給を高圧で受け、電気を使用するために変電設備等を有するビル、工場等の電気工作物が該当することは、当事者間に争いがない。
2 電気工作物の保安の確保に関し、一般用電気工作物にあっては、原則として電気の供給者(主として電気事業者)において、供給する電気を使用する一般用電気工作物が通商産業省令で定める技術基準に適合しているかどうかを調査しなければならないとされている(法六七条一項)のに対し、自家用電気工作物にあっては、前記のとおり、原則として、法七二条一項により、設置者において、その工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、主任技術者を選任しなければならないとされている。これは、自家用電気工作物は、一般用電気工作物と比較して危険性が大きいので、その設置による利益を享受する設置者の責任と費用負担において、十分な知識及び技能を有する者をして右保安の監督に当たらせることを相当としたことによるものと解される。
しかしながら、法七二条一項の文言上は、必ずしも一の事業場又は設備ごとに一人の主任技術者を専任の形態で選任することを常に必要であるとしたものとまでは解されないところ、右1のとおり、自家用電気工作物の種類規模は多岐にわたり、それに応じて確保すべき保安の程度にも差異があることから、自家用電気工作物のすべてについて、専任の形態で主任技術者を選任して保安の確保に当たらせるとする必要性は乏しい上、自家用電気工作物設置者のうちには、専任の主任技術者を雇用することが経済的に困難である者も存在することは容易に推認し得るところであって、これらの事情に鑑みると、自家用電気工作物の種類規模等に応じ、自家用電気工作物の保安上支障がないと認められる範囲内で、主任技術者の選任を専任の形態以外の形態によって行うこととすることも、法七二条一項の許容するところであり、同項は、専任の形態以外の形態で主任技術者を選任することができる自家用電気工作物の種類規模の限定及びその際の具体的な主任技術者選任の形態についても、通商産業省令に委ねたものと解するのを相当とする。
3 しかして、法七二条一項に基づく規則七七条二項は、主任技術者の選任を専任の形態で行うことが必要とされない自家用電気工作物の種類規模を最大電力五〇〇キロワット未満の需要設備のみに係る特定の事業場等に限定した上、同項及びこれに基づく本件告示によって、主任技術者の選任を専任の形態で行うことを要しないための要件として、電気主任技術者免状の交付を受けた者で、同免状の種類ごとに一定期間以上の保安実務経験を有し、かつ、所定の機械器具を所有又は使用し得る措置を講じていて、自家用電気工作物の設置された事業場からの場所的時間的近接性が確保されている者(電気管理技術者)又は通商産業大臣の指定した公益法人である電気保安協会(指定法人)と当該需要設備の保安業務の委託契約を締結したこと及び保安上支障がないものとして通商産業大臣(事業場が一の通商産業局の管轄区域内のみにある場合は、その所在地を管轄する通商産業局長)の承認を受けたことを要するものとしている。
そして、右のうち、電気管理技術者と保安業務の委託契約を締結した場合に当たるものについては、主任技術者に必要とされる資格である主任技術者免状の交付を受けた者のうちでもとりわけ十分な知識経験能力を有すると認められる者を委託契約の形式で主任技術者に選任するものということができ、該当自家用電気工作物の限定、場所的時間的近接性の確保及び保安上支障がないものとしてする通商産業大臣等の承認と併せ、法七二条一項が自家用電気工作物の保安の確保について主任技術者の選任を必要とする趣旨に適合するもので、同項の委任の範囲内にあるものと認めることができる。
また、指定法人と保安業務の委託契約を締結した場合に当たるものについては、当該指定法人を媒介として、当該指定法人に属する主任技術者免状の交付を受けた者を、いわば間接的に主任技術者に選任するものといい得る限りにおいては、該当自家用電気工作物の限定及び保安上支障がないものとしてする通商産業大臣等の承認と併せ、法七二条一項が自家用電気工作物の保安の確保について主任技術者の選任を必要とする趣旨に適合するものであること、この場合に、媒介となる法人を通商産業大臣の指定した法人に限定した点についても、右のように委託契約の受託者たる法人を媒介として間接的に主任技術者を選任する場合にあっては、媒介となる法人を、当該法人を媒介した指揮、監督によっても、法が目的とする保安の実をあげ得るような法人に限定することは、むしろ法七二条一項の趣旨に沿うものであり、このような法人の限定を通商産業大臣の裁量に基づく指定に委ねることも同項の許容するところのものと考えられることから、同項の委任の範囲内にあるものと認めることができる。
4 以上のとおり、規則七七条二項及びこれに基づく本件告示は、主任技術者の選任を義務づける法七二条一項の委任の範囲内にあるものということができる(規則七七条二項に基づいて行う主任技術者の選任を不選任承認制度と称するのは、専任の主任技術者の直接的な選任でないという趣旨であるに過ぎないと解される。)。
5 なお、原告らは、規則七七条二項による不選任承認制度一般に関し、主任技術者免状の取得者に対し保安業務を専門に行うことを認めて、その社会的経済的地位の向上を図ることをもって、同制度制定の趣旨の一とする旨主張するけれども、旧法施行当時からの沿革を含め、関係法令上、同制度が主任技術者免状の取得者の行う保安業務を収益事業として位置付け、これを保護することを目的の一とするものと解すべき根拠は全くなく、右に述べたように、自家用電気工作物の設置者に対してその保安の監督のために主任技術者の選任を義務付けた法七二条一項の委任の範囲内で、一定の要件の下に、専任かつ直接的な選任以外の形態による主任技術者の選任を認め、自家用電気工作物の保安の確保とその設置者の経済的負担との調和を図ることが不選任承認制度の趣旨であるものと解すべきであり、同制度の下で、自家用電気工作物の保安業務の委託契約の相手方となり得る主任技術者免状の取得者たる個人(電気管理技術者)又は法人(指定法人)の保安業務が収益事業として成り立ち得るものとしても、それは同制度による反射的利益というべきものに過ぎない。
三次に、原告らが、規則七七条二項の指定法人の指定を求める申請権を有するものであるかどうかについて、検討する。
1 法及び規則その他関係諸法令に、指定法人の指定について一定の法人に申請権を付与したものと解すべき規定、右指定についての申請手続を定めた規定又は通商産業大臣の指定を受けることとは別に、一定の法人が一定の要件の下に、規則七七条二項所定の不選任承認の効果を有する自家用電気工作物の保安業務の委託をし得る法的地位を付与されているものと解すべき規定は、いずれも存在しない。
2 原告らは、いわゆる特許企業としての性格を多分に有するとされている電気事業者に関してさえ、これを営むための申請権が認められている以上、元来は国民が自由に営業できるものである自家用電気工作物の保安業務を行う指定法人の指定を求める申請権も当然に認められるべきである旨主張する。
しかしながら、電気事業を営む許可(法三条)は、それが講学上のいわゆる特許であるか、単なる営業許可であるかはともかくとして、その許可を受けるべきものに対し、電気事業を収益事業として営むことのできる法的地位を設定し、あるいは回復させることを直接の目的とする通商産業大臣の処分であることが明らかである。これに対し、規則七七条二項所定の指定法人の指定は、右二で述べたとおり、自家用電気工作物の設置者に対し、その保安の監督のために主任技術者の選任を義務付けた法七二条一項の委任の範囲内で、当該法人と自家用電気工作物である需要設備についての保安業務の委託契約を締結し、かつ、通商産業大臣等の承認を受けることにより、同項の主任技術者選任の義務を果たしたとされる法的効果を生ずることとなる法人を決定することを目的とする通商産業大臣の行為であって(なお、規則七七条二項が右の指定を告示の形式で行うべき旨を定めていることに照らすと、右の指定は、厳密には、右法的効果を生ずることとなる法人を決定するとともにその決定内容を国民一般に明らかにすることを目的とする通商産業大臣の行為であるということができる。)、特定の法人に対し、自家用電気工作物である需要設備についての保安業務を収益事業として営むことのできる法的地位を付与することを直接の目的とするものではないと解すべきである。そうすると、電気事業を営む許可について申請権が認められているからといって、当然に指定法人の指定についての申請権が認められるべき筋合いにあるものということはできず、原告らの前記主張は失当というほかはない。
3 また、原告らは、指定法人の指定を求める申請権を認めないとすれば、自家用電気工作物の保安業務を営むことにおいて、個人(電気管理技術者)と法人とを合理的な理由なく差別することとなり、あるいは、法律の定めによることなく法人の自家用電気工作物の保安業務を営む営業権を奪うこととなって、憲法に違背する旨主張する。
しかしながら、右主張に照らし、原告らが右にいう自家用電気工作物の保安業務を営むこととは、自家用電気工作物の設置者と規則七七条二項に基づく委託契約を締結して保安業務を行うことを内容とする収益事業を営むことを意味するものにほかならないと解されるところ、規則七七条二項は、自家用電気工作物の設置者に対してその保安の監督のために主任技術者の選任を義務付けた法七二条一項の委任の範囲内で、自家用電気工作物たる需要設備の設置者が一定の要件を充たす主任技術者免状の取得者又は通商産業大臣の指定する法人との間で保安業務の委託契約を締結することにより、同項の主任技術者選任の義務を果たしたとされる法的効果を生ずることを定めたものであって、右主任技術者免状の取得者又は指定法人の行う保安業務を収益事業として位置付け、これを保護する等、右の者の利益又は権利の確保を目的とするものでないことは、既に述べたとおりであるから、右のような収益事業を営む利益ないし権利が規則七七条二項によって一定の個人ないし法人に付与されたことを前提として、個人と法人との間に差別があることは又は法人営業権の侵害があることをいう原告らの違憲主張は、その前提を欠くものであって、失当であることが明らかである。
なお、念のため付言すれば、原告らのような指定法人でない法人が自家用電気工作物の設置者との間で委託契約等を締結してその保安に関する業務を行うことを一般的に禁止した法令は見当たらないから、そのような法人であっても、右のような業務を行うことは妨げられるわけではなく、ただ、そのような法人との間で保安業務の委託契約を締結したとしても、委託者について法七二条一項の主任技術者選任の義務を果たしたとされる法的効果が生じないというに過ぎない。
4 さらに、原告らは、自家用電気工作物と一般用電気工作物は、その境界領域においては本質的な差異がなく、自家用電気工作物の保安業務を担当する指定法人の役割は、一般用電気工作物の保安業務を遂行する指定調査機関の役割と同質であって、保安業務の内容及びこれに必要とされる知識の面でも共通な部分が多分にあるとし、この前提のもとに、一般用電気工作物についての指定調査機関についてその指定を受けようとする者に申請権を認めた法七五条一項の類推適用によって、指定法人についても指定を受けようとする者に申請権が認められる旨主張する。
しかしながら、自家用電気工作物と一般用電気工作物との区分は、右二の1のとおりであり、電気工作物の種類、規模によって区分する以上、その境界領域においては差異が僅少であることは当然であるとしても、それぞれの属する領域全体を比較すれば、自家用電気工作物においては不選任承認制度の対象となる最大電力五〇〇キロワット未満の需要設備に限って比較の対象としたとしても、その間に相当の差異が存在することは明らかである。
のみならず、自家用電気工作物、一般用電気工作物ともに、その最終的保安責任が設置者にあることはいうまでもないが、一般用電気工作物にあっては、電気の供給者(主として電気事業者)において、その供給する電気を使用する一般用電気工作物が通商産業省令で定める維持基準に適合しているかどうかを調査し、かつ、調査の結果、右維持基準に適合しないと認めるときは、遅滞なく、その技術基準に適合するようにするためにとるべき措置とその措置をとらなかった場合に生ずべき結果とを設置者に通知する義務を負うものとされており(法六七条一項、二項)、設置者から独立した電気の供給者をその主体とする右のような調査通知義務により、右の限度で、設置者を主体とする保安義務を補完する二元的構造の保安体制をとっているものということができるのに対し、自家用電気工作物にあっては、設置者が自ら主任技術者を選任し、自家用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせることが必要であって(法七二条一項)、一般用電気工作物における電気の供給者の調査通知義務に当たるものその他設置者以外の者を主体として、自家用電気工作物の保安体制に係らしめるような制度はなく、その保安体制は、保安責任を負う主体を設置者のみとする一元的な構造であるということができる。しかるところ、指定調査機関は、電気の供給者の委託によってその行うべき右の調査通知義務を代行する機関である(法六九条一項、三項)から、指定調査機関が一般用電気工作物に係る保安に関与する範囲及び内容は、右の電気の供給者の調査通知義務の範囲及び内容と等しいものに限定されるのに対し、指定法人は、既に述べたように、自家用電気工作物の保安について全責任を負う設置者がその保安責任を全うするために義務付けられた主任技術者の選任の一態様として、設置者との間で自家用電気工作物の保安業務に関する委託契約を締結して、自家用電気工作物の保安に当たるものであるから、指定法人による自家用電気工作物に係る保安に対する関与は、その工事、維持及び運用に関する保安の監督の全範囲に及ぶものである。このように、指定調査機関と指定法人とでは、法制度上、電気工作物の保安体制における位置付け、電気工作物の保安に関与する範囲、内容等を全く異にするものであって、彼我の役割を同質であるとする原告らの主張は採用することができない。
なお、右の点に関し、原告らは、いずれも設置者の保安責任を前提として、一般用電気工作物においては電気の供給者又は指定調査機関が調査通知義務を履行することにより、自家用電気工作物においては、主任技術者の選任又は電気管理技術者若しくは指定法人との委託契約により保安責任の補強ないし補完がされるのであるから、いずれも二元的保安体制であるという点では共通する旨主張し、また、現状では、指定法人又は電気管理技術者が専門家としての独自の立場で自家用電気工作物の保安業務を遂行しており、設置者は保安業務をこれらのものに完全に委託しているのであるから、自家用電気工作物の場合に指定法人等が設置者による一元的保安体制の中に組み込まれているとはいえないとも主張するが、右各主張は、電気工作物の保安に関する法制度上、一般用電気工作物における調査通知義務が設置者から独立した電気の供給者を主体とする保安制度であるのに対し、自家用電気工作物における主任技術者又は電気管理技術者若しくは指定法人の遂行する保安業務がこれらの者の選任又はこれらの者との委託契約の締結に当たる設置者を主体とする保安制度の一環であることを無視するものであって、失当というほかはない。
したがって、指定調査機関についての通商産業大臣の指定を受けようとする者に申請権を認めた法七五条一項の類推適用によって、指定法人についても指定を受けようとする者に申請権が認められる旨の原告らの主張は、その前提を欠くものであって、失当というべきである。
5 原告らは、また、一般用電気工作物の設置者がその維持及び運用に関する保安の業務を承認法人に委託した場合に、電気の供給者又は指定調査機関の行う法六七条一項の調査のひん度が軽減されることになるから、承認法人は、指定調査機関の代行機関であるとし、また、指定調査機関の役割及び保安業務の内容は指定法人と差異がないとして、この前提のもとに、一般用電気工作物についての承認法人についてその承認を受けようとする者に申請権を認めた規則六七条の二の類推適用によって、指定法人についても指定を受けようとする者に申請権が認められる旨主張する。
しかしながら、承認法人が一般用電気工作物の設置者との委託契約に基づいて行う一般用電気工作物の保安管理業務と電気の供給者又は指定調査機関の行う一般用電気工作物が通商産業省令で定める維持基準に適合しているかどうかの調査とが全く同一でないことは明らかである上、一般用電気工作物の設置者が承認法人との間で右の委託契約を締結していても、電気の供給者又は指定調査機関による一般用電気工作物の調査を免れることはないのであるから、承認法人が指定調査機関の代行機関であるということはできないのみならず、電気工作物の保安に関する法体制の上で、指定調査機関と指定法人との役割が同一といえないことは、右4のとおりであり、原告らの右主張も、その前提を欠くものであって、到底採用の限りではない。
6 以上によれば、規則七七条二項による指定法人の指定は、通商産業大臣が一方的に行うものであって、一定の法人の申請に基づいて行うことが予定されているものではないと解するほかはなく、したがって、原告らが指定法人の指定を求める申請権を有するものということはできない。そうすると、原告らのした規則七七条二項所定の指定法人に指定することを求める申請が法令に基づくものであるということはできないから、原告らの不作為の違法確認を求める本件予備的請求は、理由がなく、失当である。
第三以上の次第で、原告らの本件主位的請求に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、また、本件予備的請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官石原直樹 裁判官青野洋士)